洒落物研究 |トレンチコートの話をしよう。

SOUTIENCOL 三浦が『洒落物研究』と題し、『後世に残したい語るべきこと』を徹底的に語り尽くす不定期連載。デザイナーとして30年にわたり一線で活躍してきた経験の”一方的なアウトプット”や様々な感性と結びつき”コンフリクトを生み出す”プロジェクトである。

第4回目は川越にあるセレクトショップ『BANANA BROWN』のオーナー鈴木さんと一緒にトレンチコートについて語っていく。セレクトショップを20年営んでいる彼女は、女性的な感性に加え、ファッションの本質的な部分にも精通している稀有な存在だ。今回はそんな彼女と三浦が対談しながらトレンチコートについて話していく。

ファッションの定番と言われるトレンチコート。一枚で様になるこのアイテムがなぜこんなにも魅力的なのかを、2人の会話から紐解いていこう。

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profile ”Toshihiko Miura”
Instagram:@soutiencol.white

大阪生まれ。現在75歳で現役続行中のデザイナー。音楽一家の末っ子として生まれ、バイオリンやエレキギターを弾く洒落者の家族から多大な影響を受けて育つ。

10代の頃は新宿や心斎橋のジャズ喫茶、ディスコで遊び、みゆき族をやるなど、まさしく”勉強嫌いの遊び人”。20代でVAN 石津謙介に出会い”生き方”を学ぶ。ファッションのイロハ、TPO、プロダクトに対する徹底的なこだわりの精神。現在のSOUTIENCOLに通じる”職人気質”を学んだ。

1992年 SOUTIENCOLを創業。”普遍的なプロダクト”と”遊び心”を加えたトラディショナルブランドとして全国のセレクトショップから支持を受ける。

profile  
Instagram:@bananabrown_kawagoe

東京下町出身。子供の頃から服好き、小学生の頃上京した祖父の手を引き浅草のブティックで服をねだったことも多々ありました。趣味は年に数回のキャンプと早朝の散歩。

座右の銘は『雨垂れ石に穿つ』。
大人世代の女性に向けたアイテムを国内外からセレクトし、インスタグラムで着こなしの提案や川越の実店舗とオンラインストアでは毎週新商品のご紹介をしています。

ファッションの考え方

・鈴木
去年の夏に別注させていただいたバンドカラーシャツ、すごい好評です。あれは今まで黒と白しか作ってなかったんですよね。

・三浦
そうなんです。バンドカラーといえばこのカラーがあれば十分だ、と思っていたんです。ファッションとして定番の形だからこそシンプルにしていこうと思ったんです。ただそこに鈴木さんから、色別注の話をもらってハッとしました。こんな風にカラーを入れることで変わってくるのかと思いました。ファッションの本質を理解しながら女性的な感性を加えれるのが鈴木さんの素晴らしいところですね。

・鈴木
ありがとうございます。おかげさまですごい好評です。着心地が最高で一枚でサラッと着こなせるから重宝するんです。あのバンドカラーシャツの三浦さんのこだわりってどんな部分なんですか?

・三浦
拘っているのは着心地とファッションの文脈を理解することですね。バンドカラーシャツだけでなく全ての商品に通じることです。

従来白リネンのバンドカラーシャツは、胸に裏地がついた二重仕立てで、肌に触れる部分は『おむつ』で使用される素材を使っているんです。ご存知の通り赤ちゃんが使う物ですから、最もデリケートに作られている素材の1つがおむつ素材です。これを使うことで、胸部分が透けてしまうことなく、肌触りもよくなり、『着心地』がよくなると考えて使用しています。 また色物のバンドカラーシャツについていは、おむつ生地に色物がないので、ソフトな肌触りの上質な細番手の綿ローンを使用しています。

・鈴木
そうなんですね。確かに胸部分に裏地がついていて凝った作りだとは思っていましたが、おむつの素材だとは知らなかったです。普通こんな素材使わないと思うんですけど、どうやっておむつ素材に行き着いたんですか?

・三浦
これは日々の研究と私の気質ですね。どうしてもものづくりに拘ってしまうし、研究を止められない気質でして。おむつ専業メーカーというものが1社だけありまして、そこにお願いしています。おむつ生地は浴衣と同じ生地幅でして、ちょうど良い生地幅だったんです。この幅であれば縫製上の課題もなく、着心地を阻害しないことがわかりました。 おむつ素材を使用することで納得いく着心地の良さを実現できました。

またファッション文脈という意味でもこだわりがあるんです。バンドカラーの期限は1300年頃のフランスと言われています。元々は農夫の方が身につけるもので、襟を着脱できる仕様だったんです。ちゃんとした場所では襟をつけ、襟をとったバンドカラーの状態ではリラックスしたスタイルができる。これが元々のバンドカラーなんです。この歴史的な背景ををデザインにも落とし込んでいます。 この『ギボシ』と呼ばれるディティールがそれです。ここに襟を取り付けることができるんですね。

もちろん現在では取り外しをする方は少ないかもしれませんが、ファッションの歴史に想いを馳せながらディティールに落とし込んでいくことがデザイナーの仕事の1つだと考えています。

・鈴木
なるほど。このディティールの意味については知らなかったです。私はここに小さいミニスカーフを巻いていました。

・三浦
このディティールを活用してファッションを表現できるのが鈴木さんのすごい部分だと思っています。もちろんファッション文脈の理解は重要ですが、そこに感性を入れてこそお客様に伝わるんだと思います。鈴木さんのインスタ見ていていつも勉強になっています。
banana brown Instagram
@bananabrown_kawagoe

ファッションのルーツ

・三浦
鈴木さんは子供の頃はどんなファッションが好きだったんですか。

・鈴木
東京の下町出身で上野のアメ横は地元といった感じで、10代の私にとっては毎日のように出歩いて発見のある刺激的なエリアでした。当時は三浦商店(現在のSHIPS)があったり、古着屋、セレクトショップ、ミリタリーショップが軒を連ね、今思うとアメ横は私のファッションの原点かもしれませんね。

・三浦
なるほど。当時の上野はファッションの大きな流れの中にありました。アメリカを中心に多くの海外ブランドが入ってきており、ファッション文脈をショップや商品を通じて感じることができたんでしょう。とても貴重な体験ですね。 『ファッションの本質』を上野・アメ横を通じて感じ、そこが自分のファッションの原点になっているんですね。

・鈴木
そうですね。デザインやシルエットはもちろん重要ですが、素材が納得いくものでないと満足できないんです。

三浦さんのファッションルーツはやはりVANですか。

・三浦
そこはまさしく大きいですね。VAN時代に出会った安田さんという方がいて、この方からは多くのことを学びました。安田さんは四六時中デパートの特選売り場に行っているような人でした。当時は海外ブランドはデパートにしかなく、そこで商品を見たり着て見ることが最も研究に適していたんです。安田さんと一緒に研究を重ね、VANが成長していった経験を経て、文脈を理解することの重要性を感じました。

ファッションの好きなこと

・三浦
鈴木さんはどんなところが好きでセレクトショップをしているんですか。

・鈴木
私は発見やその中でミックスすることがとても好きです。 ただなんでもありは違うんです。三浦さんがおっしゃる通り、上野・アメ横というファッション文脈の中にある地域やショップで学んだことにより、本質がありながら自分なりにミックスしていく楽しさを感じていったんだと思います。

セレクショップのオーナーをしている今でもそれは変わりません。それぞれのブランドからセレクトしたアイテムを自分のフィルターを通して着こなしの提案や、ご紹介できることに楽しさを実感しています。 その中で『とっておきの一枚』をブランドさんと一緒にクリエーションできるのはご褒美のようにワクワクします

私たちの考えるトレンチコート

・三浦
『どうしてトレンチが好きなのか?』。改めて考えると重要なことだと思います。定番だからこそどのブランドでも存在している商品。多くの商品が流通しているため違いを出すことが難しい。違いをフォーカスしすぎると、新しい解釈でトレンチコートと言えないものができてしまう。 1つの商品でここまで問いが生まれるものも珍しいと思います。

・鈴木
まさにそうですね。定番だからこそ考えさせられるのでしょうか。私は今までで5着くらいトレンチコートを買っています。昨年はスティアンコルのオレンジのトレンチコートを買いました。すごく素敵なコートで店頭でも人気のトレンチコートでした。

私がトレンチコートを好きな理由は、オーセンティックなデザインを残しながら、アップデートしている点です。アップデートのポイントとして、『時代性』を抑えていることが重要だと思います。 昨年買ったスティアンコルのトレンチコートはまさにそれでした。

・三浦
『時代性』とはいい言葉ですね。スティアンコルのトレンチコートはまさにそうです。多くの人が気にしないかと思いますが、微妙なサイジングの変化を毎年つけているんです。カラーやデザインに目が行きがちなファッションですが、『微細』に目を向けてる点が私たちのこだわりです。

また歴史的な背景が深いこともトレンチコートが好きな理由です。雨蓋、マガジンポケット、アンブレラヨーク、、、などこのアイテムに数十年かけた様々な試行錯誤が積み重なっている。ここのロマンを感じるのです。勘違いしたくないのは、蘊蓄にロマンを感じているのではなく、『デザインの意味』にロマンを感じているという点です。

・鈴木
それはわかります。アップデートするポイントが重要ですよね。トレンチコートって丈ひとつで全然変わるんですよ。マニッシュにもフェミニンにも。変幻自在のまさに女優コートなんです。

こんなトレンチあったらいいな

・三浦
スティアンコルでは過去いろんな別注を作ってきました。素材や色、デザインや丈などセレクトショップの顧客特性に合わせて作成していきました。

例えばSUNSHINE + CLOUDさん依頼で始まったこのシャツは、衿腰のないボタンダウンシャツでビックなサイズ感が欲しいという要望を受けてデザインしたものです。デザイン、サイズ、素材までSUNSHINE + CLOUDさんと話し合い作成したマスターピースです。

その他にも、袖のサイズを短めにしたものや、コートのライナーを別注カラーにしたものなど、ブランドさんとの話し合いで作成してきた別注アイテムが多数ある。 私はどうしても話しにくく見られるが、ブランドさんとはどんどん話しながら新しいクリエーションを生んでいきたいと思っています。

※過去の別注アイテム事例

  • 袖丈修正
  • 裏地変更

・鈴木
BANANA BROWNでもさまざまな別注を作らせていただいています。次作るなら去年オーダーしたガンクラブチェックの素材を使ってトレンチコートを作ってみたいなと思いました。このハリのある生地でウエストをキュッとしたら絶対可愛いと思います。

あとサイズ感を今っぽくしたいし、袖はもう少し太くしたいな。考えていたらどんどんアイデアが出てきてしまいますね笑

・三浦
そうですね。ぜひ今までのアーカイブ見てもらって、今後の別注作っていきましょう。秋冬に向けて時間もありますし、ぜひ会話を増やしていいものを作っていきましょう。

秋冬に向けて

いかがだったでしょうか。スティアンコルではさまざまなブランド様と協業しクリエーションの幅を広げています。同じ志を持つ方と商品を作っていくことで、新しい発想や発見が広がり、私たちも楽しんでいます。

通常商品は弊社オンラインで販売しております。別注などはブランド様のショップやオンラインショップでお買い求めが可能です。 ぜひ覗いてみてください。

いつか観た映画のような、、、TRENCH COAT

BANANA BROWN オンラインショップ

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